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札幌地方裁判所 昭和39年(む)1460号 判決

被疑者 氏名不詳 A

決  定

氏名不詳 A

氏名不詳 B

右の者に対する道路交通法、札幌市公安条例違反被疑事件につき逮捕中の右被疑者両名と右両名の弁護人になろうとする弁護士林信一の接見に対する司法警察員の処分について右林信一から適法な準抗告の申立てがあつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

昭和三九年九月二五日、札幌中央警察署、司法警察員警視藤原重雄がした「弁護士林信一と被疑者氏名不詳Aおよび同氏名不詳Bとの接見の日時をいずれも、昭和三九年九月二六日午後四時から午後四時三〇分までの間の各一〇分間と指定する」旨の各処分を取消す。

理由

本件準抗告の申立ての趣旨および理由は別紙準抗告申立ての趣旨および理由と題する書面記載のとおりであるから、これを引用する。

司法警察員警部渡辺昇の申述書および弁護士林信一作成の昭和三九年九月二六日付陳述書を総合すると同年同月二五日午後八時三〇分頃から午後一二時頃まで被疑者氏名不詳A、B両名の弁護人になろうとする弁護士林信一が札幌中央署司法警察員警視小山内清衛同斎藤定に対し逮捕により身柄拘束中の右A、B両名との接見を求めたところ右小山内清衛は、たんに「捜査中である」ということのみを理由として同日中の接見を許さず、右同署司法警察員警視藤原重雄は接見の日時を右A、B両名につき、それぞれ、昭和三九年九月二六日午後四時から午後四時三〇分までの間の各一〇分間と指定したことが認められる。

そこで、右司法警察員の接見指定処分が刑事訴訟法第三九条第三項に適合するものかどうかを判断するに憲法第三四条は何人も弁護人に依頼する権利を与えられなければ抑留または、拘禁されない旨を規定し刑事訴訟法第三九条第三項は右の憲法の定めを実効あらしめるため、被疑者と弁護人または弁護人になろうとする者との接見交通権はたとえ捜査の必要があつても、これを不当に制限してはならない旨を定めているものと解される。従つてかような規定に照してみると、司法警察員がたゞたんに捜査中であるとの理由をもつて弁護人の接見の申立てを拒み、そのほか特に接見の申立を拒否するに足るべき相当の事由がないのにも拘らず、その申立の時刻から約二〇時間も後である翌日の夕刻を接見の日時と指定したことは、被疑者の防禦を準備する権利を不当に制限する違法な処分といわなければならない。

よつて、司法警察員藤原重雄の右処分の取消を求める本件準抗告は理由があるから刑事訴訟法第四三二条、第四二六条第二項により主文のとおり決定する。

(裁判官 佐藤敏夫 神垣英郎 柏木邦良)

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